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神戸地方裁判所 昭和22年(ヨ)17号 判決 1949年1月28日

申請人

坂本政市

外一八名

被申請人

福島縣知事

主文

本件仮処分申請はこれを却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

事実

申請人等は、被申請人が昭和二十二年八月二日付をもつて申請人等の別紙目録記載の各所有地又は借地についてした換地予定地の指定処分の執行は、申請人等から被申請人に対して提起した福島地方裁判所昭和二十二年(ワ)第五四号土地区劃整理委員選挙無効確認並びに土地区劃整理による換地予定地指定処分取消請求訴訟事件の判決確定に至るまでこれを停止するとの裁判を求め、その理由として戦災復興院総裁阿部美樹志は、昭和二十一年四月二十日付官報をもつて平復興都市計画区劃整理について内閣総理大臣の決定を公告し、更に同年七月十一日平復興都市計画土地区劃整理の全区域を同年五月二十四日都市計画事業として福島県において施行するように内閣総理大臣の命令があり、その区域を表示した図面は、福島県庁に備えおいて縱覧に供する旨公告した。

第一、被申請人は、右区劃整理の施行に着手し、昭和二十二年二月二十日特別都市計画法(以下法という)第十一條所定の土地区劃整理委員会(以下委員会という)の委員の選挙を執行し、委員十人及び補充員五人を決定した。しかるに右選挙には左の如き法令違反があり、無効である。

(一)  平市の土地区劃整理施行地区(以下整理施行地区という)の地積は、二十五万坪である。従つて、特別都市計画法施行規則(以下規則という)第九條により委員の定数は、十一人以上十四人以内でなければならないのにかかわらず、委員十人及び補充員五人を選挙決定したのは同條違反である。

(二)  法第十一條によると、委員の選挙権、被選挙権は、整理施行地区内の土地の所有者及び借地権者がこれを有するが、補充員である申請外大谷武雄及び飯沼林一郞は、土地の所有権も借地権もない。殊に、大谷武雄は、特別都市計画法施行令(以下令という)第二十條所定の申告もしていないのにかかわらず、被申請人は、選挙の結果、昭和二十二年二月二十四日付書面で右両名に対しそれぞれ補充員として決定した旨通知した。これは、明らかに法第十一條及び第三十一條違反である。なお、大谷武雄は合資会社東北時計工作所の代表社員であるが、同会社も大谷武雄も投票しなかつたものである。

第二、委員会の委員長大嶺庫は、中央公職適否審査委員会の審査の結果昭和二十二年一月四日勅令第一号所定の覚書該当者として指定を受け、公職から追放された。そして特別都市計画事業は、福島県において施行することになつているから委員会は、都道府県単位以上の委員会に該当する。それゆえ、大嶺庫は、その委員の職に就くことはできない。又在職中ならば退職しなければならない。従つて、もともと無効な選挙による委員をもつて構成された不適法な委員会は、右勅令にも違反する。しかるに、被申請人は、法第十條に基き、右委員会の意見を聞いて、申請人等の別紙目録記載の各所有地又は借地について換地予定地の指定を決定し、昭和二十二年八月二日付書面をもつて申請人等に通知をし、この通知は、同月十二日から二十日ごろまでの間にそれぞれ送達されたが(もつとも合資会社東北時計工作所に対する通知は、大谷武雄個人名義できたので、受領を拒絶し又申請人鈴木義忠も受領を拒絶した)右の如く、法令に違背し、資格のない委員をもつて組織された委員会の意見を聞いて決定した換地予定地の指定処分は無効である。

第三、被申請人は、土地区劃整理施行として平市平駅前西側から南方小太郞町に至る幅員三十米延長僅か四百八十米に過ぎない道路の開設を計画しこれに必要であるとして申請人等の所有地又は借地を收用するため換地予定地の指定処分をしたのであるが、これは左の理由で違法であり、取り消されなければならない。即ち、右道路開設によりその敷地として平市街中心地約四千坪が犠牲に供せられる外現在平市の旧市街地の有する宅地総坪数約二十六万坪のうち実に八万坪が收用されることになること、平市は四面山に囲まれ、南部の農地を宅地化する以外には市街地発展の余地はないのであるが、農地の宅地化は治水その他の惡條件によつて実行不可能といつてよいこと、平市は商業都市としての発展性を有し、工業都市としての発展性が極めて少いのに、右道路を開設すれば、市の中央の最も繁華な商店街を失い、商業都市としての発展性を阻害する結果となること、今日の住宅難の下道路敷地及び換地上に存する建物の全部又は一部を取りこわさなければならない結果を生じ、その家屋の被害軒数並びに被害人員が多数に上ること、元来右道路は、平市が戦災にあう以前は幅員十五米として計画されていたのであり平市が昭和二十年三月十日及び同年七月二十八日の空襲により市の西部の一劃六百十二戸及び中央部の三日町を中心として南北にわたり百八十七戸の家屋がり災した結果戦災都市として法の適用を受けることになつたのであるが、他の戦災都市に比べて被害が極めて僅少であり、これと同一に取り扱うべきものでないこと、人口三万の小都市平市において幅員三十米の局部的防火道路を作ることは全然意味のないこと、現在の財政難物資欠乏の下において直ちにこの道巾に相当する壯麗な高層建築物が建ち且つ道路らしく舖装されることなどは絶対に望めないこと、右道路は平駅が平市の南部の水田地帯に移転することを前提としての計画であるが駅の移転は、実現困難であること、どうしても道路開設の必要があるとすれば、道路敷地が約二千坪に止まり取りこわし被害家屋が十数棟、被害人員も約十五人ですむ幅員十五米の道路とすればよいこと、以上要するに、幅員三十米の道路開設は有害であり、公益上必要の限度を越えて、不当に個人の財産権を侵害するもので、日本国憲法第二十九條に違反する。従つて、右道路開設のための換地予定地の指定処分は違法のものである。

申請人等は、かかる無効違法な行政処分によつて権利を侵害されるから、この危険を防止しなければならない。よつて昭和二十二年十月六日申請の趣旨記載の訴訟を提起したが、目下区劃整理の工事に一部着手しており、時日を徒過すれば、囘復できない損害を被り、仮に勝訴の判決を受けても、その目的を達することができないので、本申請に及んだ次第であると陳述し疎明として、疎甲第一乃至第十号証(うち第三号証は一、二第十号証は一、二、三)を提出し、証人大谷武雄の証言を援用し、疎乙第一乃至第六号証、第八乃至第十一号証の成立を認め、第一、二、三、八、九号証および第六号証の一部を援用し、第七号証の一、二の成立は不知と答えた。

被申請人は、主文第一項同趣旨の裁判を求め、申請人等の主張事実中、昭和二十一年四月二十日及び同年七月十一日平戦災復興都市計画土地区劃整理の決定及び該事業の施行命令について公告のあつたこと、委員会の委員の選挙を執行し、委員十人、補充員五人を決定したこと、補充員の一人が飯沼林一郞であること、大嶺庫が昭和二十二年勅令第一号所定の覚書該当者として指定を受けたこと、合資会社東北時計工作所も大谷武雄も投票しなかつたこと及び被申請人が申請人等の別紙目録記載の土地に対して換地予定地の指定処分をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

第一、(一)について、平市の整理施行地区の地積は、令第十條の規定により第一次施行地区として昭和二十一年十二月二日福島県告示第三百二十六号をもつて告示した通り約十五万五千坪である。従つて、今次整理施行地区から選出されることになる委員の員数は、右整理施行地区面積(二十万坪未満)を標準として令第十六條但書及び規則第九條の規定により十人と決定し、選挙により委員十人及び補充員五名を決定したのは適法である。しかるに、申請人等の主張は、昭和二十一年四月二十日及び同年七月十一日に告示のあつた都市計画土地区劃整理の区域と整理施行地区とを混同し、今次施行地区の地積を二十五万坪であるとの断定の下に委員の員数を論じているもので明らかに誤つている。即ち、「整理区域」は、その施行すべき土地の区域を総括して定めたものであつて、法第三條に基き都市計画委員会の議を経て内閣総理大臣が決定したものであるが、(但し、昭和二十一年九月二十三日法施行の際現に都市計画事業として施行しているものは、規則第十八條により特別都市計画事業として決定したものとみなされる)。令第十條の規定にいう「整理施行地区」と必ずしも合致するものではないのである。即ち、整理施行上場合により整理区域内を数区域に分けて施行することができるのであり、例えば東京都をはじめ、その他今次の戦災復興の土地区劃整理の施行地区が数地区又は数十地区に分けられている実例に徴しても明らかである。

(二)について、法に基く整理委員の選挙は、一般選挙と異り、第一、選挙権に対し別段欠格條件の規定がなく、第二、代理投票を認め、第三、投票無効に対する明文がない。このことは、委員の特殊性を認めた結果であり、投票に関しても厳格に解する必要はなく、記載の氏名がいずれの被選挙人であるかを判定するに足るときは、これをその被選挙人に対する投票と認めて処置することは、別段違法とはいえない。

大谷武雄の場合

大谷武雄は、合資会社東北時計工作所の代表社員である。同会社は、土地の所有者として令第二十條第一項による申告をしなかつたが、当然被選挙権は認められた。選挙の結果、投票のうち「大谷武雄」と記名した一票があつたので、右は同会社の代表社員としての大谷武雄に対する有効投票と認め、これを補充員に決定の上通知を発したが、所定の期間内に不承諾の意思表示がなかつたので、承諾したものとして処理した。もつとも、右会社の代表社員としての大谷武雄に対する当選通知書及び県告示が単に大谷武雄として取り扱われたが、右は事務的な手違いに過ぎないのであつて、これをもつてあえて違法というべきではない。仮に、大谷武雄の補充員としての当選は無効となるものであつても、このためこの選挙が全面的に無効となるものではない。

飯沼林一郞の場合

飯沼林一郞は、借地権者として、令第四十五條但書の規定による届出及び令第二十條第一項の規定による権利の申告があり、いずれもその條件を具備したものと認めたから、法令に従い処理した。若し、申請人等の主張が正当であるとするならば、令第四十五條但書の定める届出の地主の連署が偽証であつたことが証明されなければならない。

第二について、特別都市計画事業を施行するものが県であるから、委員会の委員は、都道府県単位以上の委員に該当するものであるとの主張は正当でない。法第一條第二項及び第三項によつて明らかな如く、特別都市計画とは戦争によつて災害を受けた特定の市町村の区域により行う都市計画であり、また委員会の構成過程、権限、運営上より見て委員会は、都道府県単位以上の委員会でないことは、明白である。従つて、大嶺庫は、委員会の委員として就任してさしつかえないものであるから、委員会の構成は、適法であり、被申請人がこの委員会の意見を聞いて定めた換地予定地の指定処分は無効ではない。

第三について、都市計画街路田町小太郞線の幅員は、平市において必要の程度を超えた有害なものでなく、又違法のものでもない。右街路は、平市民の要請と平市発展上適正なものである。即ち、右街路は、都市計画として決定されたものであり、本決定は、都市計画法第三條の規定に基いて主務大臣が都市計画委員会の議を経て内閣総理大臣の認可を受けた後、これを決定するものであつて、行政官庁である主務大臣の決定に属し、土地区劃整理施行者の自由裁量によつて左右されるものでなく、従つて、右街路の決定に対する訴訟の如きは、整理施行者である被申請人を相手として争うは無意味なことといわざるを得ない。右街路は、現在の平駅の位置と丁度その市街地の反対側(南側)に運輸省によつて計画された将来の平駅の位置を、南北に連絡して、東西に長い平の市街地を両断するような位置にあり、停車場と連絡する交通の便に供し、且つ、防火帯として効用を果さしめる目的で計画されたものである。戦災復興計画においては、中小都市の主要幹線街路について次のような標準を作つた。即ち、車道については、駐車線各側一車線(二米)とし、又混合交通を分離し、且つ、美観防火の点から幅員二米の植樹帯を本道中の両側に設ける(計四本)。又歩道については、植樹柳巾二米を含めて各側六米とし、以上合計全幅員を三十六米とした。平市においても駅前街路は、交通がふくそうする主要幹線と認め、右の基準により三十六米街路として決定したものである。その後、平市長から三十米に縮少するようにと請願があつたのであるが、当該地区の焼失面積が比較的僅少なため換地に相当の困難があること等を勘案して、高速車線を一車線減じ(三米)。植樹帯幅員二米を一米五〇とし、歩道幅員六米を五米とし計六米を減ずることとして三十米を認めたのである。なお、歩道幅員の五米は、現在駅前街路八米乃至九米の幅員で歩行者が極めてふくそうしている現状からみて必要なものと考える。防火という点からみると、二階建木造家屋における従来の火災の実験では無風時、ふく射熱によつて反対側の家屋が類焼するのを防ぐためには間隔が約十六米なければ安全でないという結論がある。但し、この実験では一戸だけの場合であつて、最高温度攝氏八百度であつたが、家屋が並んでいる実際の火災温度は更に上昇し、攝氏千度乃至千二百度に達し、そのふく射熱に絶対温度の四乗に正比例して增加するから、安全な間隔というものは、一戸だけの場合に比して、千度の場合で二倍(三十二米)。千二百度の場合は三、五倍(五十六米)が必要となる。しかも、この値は、無風でふく射熱のみを考えたのであるから、風のある場合を考えると、それだけでも十分でないといえる。これを補う意味で植樹帯を設ける。植樹帯は延焼する時間をおくらせるのに効果があるが、絶対的なものではない。以上の見地から、防火帯兼用の街路としては少くとも幅員三十米を必要とするものとして従来実施してきたものである。

従つて、申請人等の本件仮処分申請は理由がないから、却下されるべきものであると陳述し、立証として、疎乙第一乃至第十一号証(うち第七号証は一、二)を提出し、疎甲第一乃至第十号証(うち第三号証は一、二、第十号証は一、二、三)の成立を認めた。

理由

戰災復興院総裁阿部美樹志が昭和二十一年四月二十日付官報をもつて平復興都市計画土地区劃整理について内閣総理大臣の決定を公告したこと、更に同年七月十一日平復興都市計画土地区劃整理の全区域を同年五月二十四日都市計画事業として福島縣において施行するように内閣総理大臣の命令があり、その区域を表示した図面は、福島縣廳に備えおいて縱覽に供する旨公告したこと、及び被申請人は、昭和二十二年二月二十日法第十一條所定の委員会の委員の選挙を執行し、委員十名及び補充員五名を決定したことは当事者間に爭がない。

第一、右選挙が法令に違反し、無効のものであるかどうかの点について考える。

(一)  前段認定の公告の趣旨に成立に爭のない疎乙第三号証を総合すると、平復興土地区劃整理の全区域のうち先ず第一次整理施行地区として、平市佃町、小太郞町、堂根町、童子町、堂の前、材木町、研町、中町、十五町目、三町目の全部及び長橋町、研町裏、右鍜冶町、紺屋町、田町、白銀町、番匠町、大工町、五町目、南町、四町目、大町、新川町、月見町、尼子町の各一部が定められ、その地積が約十五万五千坪であることが一應認められるから、規則第九條第一号、令第三十一條により、委員の員数は十人以内、補充員の員数は五人以内でよいわけである。從つて、被申請人が本件委員の選挙によつて委員十人、補充員五人を決定したのは適法であり無効ではないといわなければならない。

(二)  法第十一條、令第十八條によると、整理委員は、整理施行地区内において、土地所有者にあつては土地所有者のうちから、借地権者にあつては、借地権者のうちから選挙することになつており、令第二十六條によれば、選挙人名簿に記載されていないものは投票することができない。從つて、土地所有者でも借地権者でもないものが投票され、又、そのものが選挙人名簿に記載され、その選挙人名簿に基いて投票しても、それら投票は、いづれも無効であり、当選を無効たらしめる場合がある。

大谷武雄の場合

大谷武雄が、土地所有者でも借地権者でもないこと及び同人が、土地所有者である合資会社東北時計工作所の代表社員であることは、当事者間に爭がない。よつて單に大谷武雄と記載した投票を右会社の代表社員である大谷武雄に対する投票と認めることができるか、どうかの点について考えるに、成立に爭いのない疎甲第二、三ノ一、二、七号証によると、大谷武雄に対する補充員決定通知書等には單に大谷武雄と記載されているが、同人は、右会社の代表社員たる地位にあり、右会社は大谷の名を冠し、大谷武雄といえば、容易に右会社の代表者であることを推察せしめる事情や、同人が土地所有者でない事実などにかんがみ、右投票は、右会社の代表社員としての大谷武雄に対する投票と認めるのが妥当である。前掲疎甲号各証に、大谷武雄と記載したのは、被申請人弁論の全趣旨によつて、一應合資会社大谷時計工作所代表社員大谷武雄の單なる誤記に過ぎないことが、認められるから、これをもつて、必ずしも、右投票が、大谷武雄個人に対する投票と認めなければならないほどのことはない。もつとも、当事者弁論の全趣旨によれば、右会社は、令第二十條による申告をしなかつたものと認められるが、右申告は、令第二十一條により選挙人名簿作成のための手続であることが明らかであり、選挙人名簿は單に選挙権の行使を制限するに止まるものであるから、同会社が、選挙権を有しないのは勿論であるが、その土地所有者としての被選挙権には何等の影響がなく、從つて、被申請人が、大谷武雄に対する投票を合資会社東北時計工作所の代表社員としての同人に対する有効投票と認めて、同人を補充員に決定したのは適法である。

飯沼林一郞の場合

飯沼林一郞が選挙の結果、借地権者として補充員に決定されたことは当事者間に爭がない。しかしながら、成立に爭のない疎甲第四号証、疎乙第四号証、同第九号証を総合すると、飯沼林一郞は令第四十五條による借地権者の申告をし、選挙人名簿に登載され、本件委員の選挙において投票をしたが、眞実は借地権者ではないことが、一應、認められる。即ち、飯沼林一郞は借地権者ではないのであるから、たとえ、同人が借地権者として選挙人名簿に登載され、同人に対する投票があり、被申請人が、同人を補充員と決定しても、右決定は無効である。被申請人は、飯沼林一郞を補充人に当選決定したことが無効だとするならば、先ず、飯沼林一郞が令第四十五條但書によつてした届出の地主の連署が僞証であることが証明されなければならないと主張するが、いやしくも飯沼林一郞が借地権者でない以上、借地権者として、選挙人名簿に登載されても、同人は、選挙権及び被選挙権を有するものでないから、補充員になれるはずがなく、被申請人の本主張は理由がない。次に、同人が投票し、同人に投票があつたため、当選と決定した委員に移動をきたすかどうかを勘案するに、成立に爭のない疎甲第二号証によると、借地権者の委員中西山義孝は、五票で最下位で当選し、補充員のうち橫山万藏は、二票、飯沼林一郞は、一票でそれぞれ補充員と決定されたことが認められる。從つて飯沼林一郞が投票し、投票されるべきものでないとすれば、飯沼林一郞に投じた一票は、橫山万藏に投ぜられていたかもしれない。一方飯沼林一郞は、あるいは、西山義孝に一票を投じたのかもしれない。仮に、そうだとしても、西山義孝の得票数は四票であり、橫山万藏の得票数は三票であるから、当選の結果に何等の異動も來たさない。なお、飯沼林一郞を補充員と決定したことが無効であるから、補充員は、四名となるが、四名でも差し支ないことは、令第三十一條の規定の趣旨によつて、明らかである。

第二、本件委員会の構成が不適法であつて、本件換地予定地の指定処分が無効であるかどうかの点について、考える。

本件委員会の委員長大嶺庫が中央公職適否審査委員会の審査の結果、昭和二十二年一月四日勅令第一号所定の覚書該当者として指定を受け公職から追放されたことは当事者間に爭がない。しかし、委員会は昭和二十二年一月四日閣令内務省令第一号別表第二の三の都道府縣單位以上の委員会ではないと解するのを相当とする。何となれば、法第十一條によつて明らかな如く、委員会は、整理施行地区毎に置き、委員は、同地区内の土地の所有者及び借地権者が選挙し、又法第一條によつて明らかな如く、特別都市計画とは戰爭によつて災害を受けた特定の市町村の区域により行う都市計画であるからである。もつとも本件特別都市計画事業は福島縣において施行するよう内閣総理大臣の命令があり、福島縣を統括する行政廳である福島縣知事がその事業の施行者であるが(法第一條第四項、第四條、都市計画法第六條第一項参照)、これをもつて本件委員会が都道府縣單位以上のものとはいい得ない、両者はおのずから別問題であるからである。從つて、大嶺庫が委員長であつても、本件委員会の構成が不適法ではなく、その意見をきいてした本件換地予定地の指定処分は適法であつて、有効なものであると断ぜざるを得ない。

第三、本件換地予定地の指定処分が違法であるか、どうかの点について考える。

申請人等は、幅員三十米の道路開設は有害であり、公益上必要の限度を越えて、不当に個人の財産権を侵害するもので、日本國憲法第二十九條に違反する。從つて、右道路開設のための本件換地予定地の指定処分は違法であると主張するが、都市計画法第三條によると、右道路の幅員は、主務大臣が決定するものであり、被申請人にはその決定権がないことが明らかであるから、被申請人が、主務大臣の決定したところに基き、右道路開設のために本件換地予定地の指定処分をすることは何等違法ではない。しかのみならず、成立に爭のないは疎乙第六、八、十一号証に被申請人弁論の全趣旨を総合すると、一應、幅員三十米の道路開設は有害なものでなく、公益上必要の限度を越えて不当に、個人の財産権を侵害するものではないことが認められる。從つて、日本國憲法第二十九條に違反するものではなく、右道路開設のための換地予定地の指定処分は適法であるといわなければならない。

以上、説示の通り、一應本件委員の選挙は有効であり、本件換地予定地の指定処分も又無効又は違法なものではないことが認められる。從つて、申請人等の本件仮処分申請は理由がないものと認めて、これを却下し、申請費用の負担について、民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文の通り判決する。

目録

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